第13話 黒い瞳の彼女

 「それって、俺ん家じゃねえか!」
 予想外の展開に、今度は透の目が虚ろになるところであった。
 ビーの口から聞かされた住所は、紛れもなく真嶋家のものである。つまり透の自宅に噂のお嬢様がいるらしい。
 混乱する頭を落ち着かせ、状況を整理する。
 まずはビーを虜にした黒い瞳が特徴の彼女。家に住むアジア系の女性と言えば、母親ともう一人、同じ中学校に通うタイ人のジーンしかいない。
 母親の可能性は万に一つもないだろう。年齢的にもそうだが、彼女の瞳は黒ではなく、息子と同じ琥珀色をしており、また、どんな贔屓目を使ったとしてもお嬢様とは言い難い。第一、あの落ち着きのない母親が大人しく本を読むなど考えられない。
 そうなると、黒い瞳の彼女は同級生のジーンである。ジーンなら『タツミ』のドリンクバーにいるのをよく見かけるし、いつも本を読んでいる。
 白目の部分よりも遥かに大きい黒い瞳は、まさに吸い込まれるほど魅力的で、フレンドリーな笑顔をより印象づけている。アジア系に弱い男なら、一発で惚れるはず。
 真嶋家の一風変わった事情を知らないビーは、大勢の留学生が出入りする様子を見て、金持ちの屋敷と間違えたのだ。
 透がこのことを話すと、相棒のレイが安堵の笑みを浮かべた。
 「だったら、ビーにもチャンスがあるわけだ」
 「いや、それがそうでもない」
 透の記憶によれば、ジーンの父親はタイの観光地でホテルをいくつも経営しており、彼女はその一人娘だと聞いている。将来的には家業を継ぐつもりで、国際人としての必要な教養を身につける為に、親元を離れて留学している。
 そんな彼女の立場を考えれば、ビーの恋愛が成就する可能性はゼロに等しい。
 ジーンはとても真面目で、良い娘だと思う。そしてビーも世間の常識から外れるところはあるものの、基本的には良い奴だ。
 出来ることなら協力してやりたいとの気持ちはあるが、両者の違いを考えればマイナス要素が多過ぎる。唯一手立てがあるとすれば、恋愛経験豊富な姉貴分のディナを頼ることぐらいだろうか。女のことは、女に聞くのが一番早い。
 「うちにエキスパートがいるから相談してみよう」

 透はレイとビーを連れ立って自宅へ戻ると、リビングでくつろいでいた留学生達に二人を紹介した。
 「俺のテニス仲間のレイとビーだ」
 二人が部屋の中に入るなり、穏やかに流れていた午後のティータイムがぴたりと動きを止めた。普段、物怖じする事のない透でさえ、初めてビーと対面した時には腰が引けたのだから、皆が唖然とするのも無理はない。
 「はじめまして」
 異色の訪問者に最初に手を差し伸べてくれたのは、透と同級生のエリックだった。心根の優しい彼は硬直した空気をほぐそうと、率先して歓迎の意を示してくれたのだ。
 ところが、その行為は場の雰囲気をさらに悪化させる事となった。
 片や、非の打ちどころのない優等生。片や、喧嘩上等の現役ヤンキー。
 透を挟んで握手を交わす彼等に接点は見当たらない。あるとすれば、どちらも透と親しい間柄であること。この一点だ。
 「よろしく」と言ったものの、さすがのエリックもどう話を進めて良いか分からず、上品な笑顔を引きつらせている。ビーにいたっては、拳よりも先に握手を交わす挨拶に慣れていないのか。とっさの防衛本能からエリックを睨み付けている。「ガンを飛ばす」とか「メンチを切る」とも言う。

 自分の家にいるにもかかわらず、透は何やら居心地が悪かった。
 正直なところ、ここまで彼等に共通点がないとは、対面させるまで気付かなかった。ビーやレイが普通に見えるストリートコートと、エリックが普通に見える自宅や学校と。この両極端な環境を、自分が毎日のように行き来していることも。
 成り行きとは言え、どちらの親友にも気の毒なことをした。
 相変わらずリビングには気まずい空気が漂っている。ところが、自分達では如何ともしがたい空気を、外出から戻ったディナが取り払ってくれた。
 「ハイ、ボーイズ!」
 メークアップアーティストを志すディナは個性的なスタイルを見慣れているせいか、ピンク髪も金髪も一緒くたに「ボーイズ」という共通のカテゴリーに放り込み、ごく自然に話しかけてきた。
 「皆で集まって、何の相談? まさかテスト勉強じゃないでしょ、この顔ぶれは?」
 いつもなら彼女の歯に衣を着せぬ言い方に狼狽させられる透だが、今回ばかりは心強く感じた。

 家の中にジーンがいない事を確認してから、透は早速、頼りになる姉貴分に相談を持ちかけた。立場も、性格も、育った環境も違う相手に一目惚れした親友の恋を、どうにかして実らせる方法はないものか。
 一通り話を聞いてから、ディナはいとも簡単に答えを弾き出した。
 「ストレートに言うしかないんじゃない? だって、気持ちを伝えなきゃ、相手も気付きようがないじゃない?」
 「まあ、そうなんだけど……」
 確かにディナの言う通りかもしれないが、透にはそれが最善の策だとは思えなかった。
 良家のお嬢様とあって、ジーンは同年代の学生よりも堅実で、しっかりした考えを持っている。そんな彼女が、いきなり見ず知らずのヤンキーから告白されたら、どう思うか。
 腹を割って話せば、ビーほど良い奴はいない。だが、男から“良い奴”だと思われる人間が異性からも同様に見なされるとは限らない。しかもビーの場合、第一印象が悪すぎる。
 二の足を踏む少年達を前にして、ディナがとっておきの情報を教えてやると言わんばかりに、強気な目線以外、顔中の全てのパーツを上向きにしながら高らかと断言した。
 「良いこと、ボーイズ? 女の子ってね、あれこれ小細工されるより、ストレートに告白される方が却ってグッとくるものなのよ」
 その場にいた男性陣から、一斉に「おおっ!」と歓声が上がった。
 リビングにいる留学生達は、国籍も、年齢も違うが、この手の話題に興味があるのは共通しているようで、皆、それぞれに違う事に没頭する振りをして、密かに透とディナのやり取りを聞いていたのである。
 男性陣の支持を得て得意になったディナが、具体的な策を練り始めた。
 「まずはストレートに告白する。そして気持ちを伝えたら、後はアプローチあるのみよ!
 ジーンの興味がある物を全部教えてあげるから、積極的に話しかけなさい。
 確か、彼女は本を読むのが好きよね? ジャンルは色々だけど、ミステリーが多かったかしら?
 あと占いとか星座にも興味があるみたい。星の話をよくしているわ」
 ディナの激しく前向きなアドバイスを聞いて、ビーが俄然やる気になった。
 「じゃあ、今夜にでもデートに誘ってみるか?」
 フライングしかけた相棒を、レイがたしなめる。
 「物事には順序ってモンがあるだろ? こういう事は、もっと時間をかけないと。
 第一、いきなり暗闇でお前を見たら、一般人はビビる」
 付き合いの長いレイならではの指摘である。確かに暗闇でピンク髪に紺袴を履いたヤンキーが現れたら、ジーンでなくともビビるかもしれない。
 「レイの言う通りよ。デートに誘うのは、もっと進展してからにしないと。
 でも、その心意気は大事にしなさい。情熱は、必ず相手に伝わるわ。
 とくにかく告白! 飾らずに、正直な気持ちをぶつけるの。
 ビーはちょっと弾けて見えるけど、その純粋さをアピールすれば、きっと上手く行くはずよ」
 見た目だけでなく、ビーの内面もセンスも生活もかなり弾けており、純粋さをアピールするのは至難の業である。だが、そんな憂慮すべき現実に臆することなく独自の理論を展開するディナは、恋愛の師というよりも、ビーの暴走を煽る厄介なアドバイザーに見えてきた。

 何となく嫌な予感がする。透は、不幸なことが起きる直前にいつも感じる暗澹とした空気を拭いきれなかった。
 そこへ、タイミングが良いのか、悪いのか。ジーン本人が帰宅した。
 リビング内の学生達の注目を集める中、おもむろにビーが口を開いた。
 「俺様、アンタが好きだッ! 付き合ってくれ!」
 いきなりの告白。「はじめまして」もなければ、自分が何者かを名乗ることもなく、会ったと同時にビーは想いを告げた。
 いくら指南通りとは言え、あまりに唐突な告白に面食らったジーンは、その対象が自分ではないと思ったらしく、何度も後ろを振り返っている。
 「あの……?」
 チャームポイントの黒い瞳が大きく見開かれ、慌しく別の対象者を探している。前後左右、天井まで探した挙句、ようやく自分しかいないと悟ると、彼女は涙目になりながら、すがるような視線を透とエリックの二人に投げかけた。
 あの顔は明らかに自分達に助けを求めている。それほど社交的ではないジーンが、家の中で頼りにする相手と言えば、同級生の二人ぐらいしかいない。
 災難としか言いようのない突飛な状況をどう切り抜けて良いのか分からず、戸惑っているのだろう。奈緒もどうして良いか分からない時に、よくああいう表情をしていた。
 ジーンの気持ちは分からなくもない。初対面のピンク髪のヤンキーに、皆の前で突然「好きだ」と言われて、驚きを通り越して怖くなったのだ。
 開けっぴろげなディナの性格なら嬉しいかもしれないが、慎ましやかなジーンには、この直球は「グッとくる」より「ぞっとした」に違いない。
 「あの……ジーン?」
 透は出来るだけのフォローをしようと試みた。
 「彼は俺の親友で……えと、名前はブライアンって言うんだ。見た目は少し派手だけど、すごく良い奴で、君のことを『タツミ』で見かけて、それで……」
 決して、やましい気持ちがあった訳ではない。しかしビーをジーンの好みに合わせて紹介しようとすると、たどたどしい言い方になってしまう。
 「突然の告白で驚いたかもしれないけど、彼なりによく考えたことで……こう見えても繊細なところもあるし……」
 フォローをすればするほど、真実味に欠けるような気がしてきた。他人の家に上がり込み、いきなり皆の前で「好きだ!」と叫ぶ無粋な輩を間違っても「繊細」とは呼ばない。
 「一途って言うか、ピュアって言うか……」
 やはり透の話術では、ビーの純粋さをアピールするには無理があるようだ。ピンク髪と黒い瞳の間には空々しい空気が漂っている。

 透の様子を見かねたレイが、今度は下手くそなフォローのフォローに回った。
 「ビーは日本びいきでさ。ほら、これ、『富士魂』ってタトゥー。クールだろ?」
 ビーの二の腕を見て、ジーンの瞳がさらに大きく見開かれた。意味不明な漢字のタトゥーに驚いたのもあるが、日本とタイを混同する彼等に強い怒りを覚えたのだ。
 アメリカ人にとっては、日本もタイもアジア圏内の一部に過ぎないが、そこの国に住む人間にはひとくくりにされたくない場合もある。特に彼女は、日頃から日本人とよく間違われる為に、個人的にもキッチリ区別しておきたい問題の一つであった。
 「私、デリカシーのない人、嫌い」
 普段はフレンドリーに見える黒い瞳には、不審者に対する敵意が映し出されている。
 「なんで? 俺様、まだ何にも話していないのに?」
 それが問題なのだ。普通は自分の名前に始まり、どういう人間かを伝えてから告白するものである。
 「私、もっと紳士的な人が好きなの」
 そう言って、ジーンは少し照れながらエリックの方をチラリと見やった。どうやら彼女には、他に想いを寄せる相手がいるらしい。
 ここは奈緒とは違うところだ。うろたえながらもジーンは、ちゃっかり自分の告白まで済ませている。
 そして代わりに戸惑っているのは、エリックの方だった。透に視線を送って助けを求めているところを見ると、エリックにはその気がないようだ。
 ビーはジーンに、ジーンはエリックに、エリックは透へと視線が行き交う中、いきなり勃発した三角関係を、姉御のディナが見事に収拾した。
 「ビー、さっさと諦めて次の恋を探しなさい!」

 夕食後、昼間の騒ぎが嘘のように静まり返ったリビングで、透は肩を落として出ていくビーの後姿を思い出し、胸が痛くなった。とりあえず「ぶっ壊せ」というジャンの指令はクリアしたものの、呆気なく玉砕した親友の気持ちを考えると、何とも後味の悪い結末だ。
 それに加えて、同じ家に住み、寝食を共にしているにもかかわらず、ジーンの恋心に全く気付かなかった自分にも腹が立つ。もしも彼女に意中の相手がいると分かっていたら、ビーが道化役になる前に身を引かせることも出来ただろう。
 目には見えない他人の気持ち。どうでも良い事は見えるのに、肝心の事は分からない。
 ビーと同じ類の溜め息が、透の口からもついて出た。
 「女って、よく分かんねえや」
 十二歳の少年から漏れ出た大人びた発言にディナが興味を覚えたらしく、ダイニングからリビングのソファまで、飲みかけのワインとツマミを抱えて、いそいそとやって来た。
 「あら、少しは成長したのかしら? だけど、それはお互い様なのよ。
 私だって、男どもが何を考えているのか、分からないもの」
 「男は、女に比べりゃ単純だよ。女の方が分かりにくいって」
 「そう思うのは、トオルが男だからよ。でもね、だからこそお互いに夢中になれるのかも……」
 安物のロゼの入ったグラスを傾けながら、ディナが上機嫌で続けた。
 「恋愛でも何でも、自分の思った通りにいかないから、夢中になれるんじゃない?
 分からないから知りたいと思う。上手くいかないから、必死になって追いかける。
 例えばメークの仕事。今の私は、これが一番夢中になれる」
 男女間の恋愛については分からないことだらけだが、テニスに置き換えれば、透にも思い当たる節がある。
 思い通りのボールが打てないからこそ、理想に近付きたくて練習を重ねる。簡単に習得できないからこそ、夢中になれる。
 「そうかもな」
 答えながら、また“あの時”の光景が頭に浮かんだ。

 あの時 ―― 今日のビーのようにさっさと告白していれば、いつまでも引きずる事もなかったのかもしれない。
 バリュエーションの後に立ち寄った河原で、透は初めて奈緒に対する恋心を自覚した。そして、すぐに告白しようとして、試合直後にランニングを始めた中西の姿を見て止めたのだ。
 レギュラーになれたからと浮かれずに、当初の目標である遥希との試合に勝ってから伝えようと決意した。
 彼女に相応しい男になりたかった。背伸びをした訳ではなく、自身の中で最も納得のいく選択だった。
 ところが思わぬ転校騒ぎで、それは実現出来ずに終わった。何もかも形にならないまま、涙を浮かべる彼女に背を向けて旅立った。
 伝えられない想いを抱えて過ごすのが、こんなに後悔する事だとは知らなかった。気持ちだけが膨らんで、時々押し潰されそうになる。
 今からでも葉書を出そうかと思う時もあるが、現状を考えるとペンを持つ気になれなかった。かろうじてテニスを続けているとは言え、決して威張れる環境ではない。
 テニスの練習量と同じだけ、乱闘も多いコート。光陵学園に帰るための砦と言い繕ったところで、危険区域に変わりなく、ヤンキー集団の幹部として暴れまわる毎日だ。彼女を喜ばせる話題は一つとしてない。
 もう、奈緒だって忘れているだろう。四ヶ月しか在籍しなかった転校生など、覚えている方がどうかしている。
 何度も自身にそう言い聞かせて、膨らむ想いに傷をつけ、後悔を痛みに変える事で気を紛らわせていた。きっと、その方が楽に違いないと。

 物思いにふける透の顔を覗き込み、ディナが冗談めかして囁いた。
 「今度は、自分のことで相談に来なさいね!」
 「べ、べつに俺には、そんな奴……」
 言ったと同時に、拭い去ったはずの奈緒の顔が浮かんだ。
 「いねえよ、そんな奴」
 「まあ、良いわ。そのうちね!」
 ディナが自室に戻るのを見届けてから、透は財布の中にしまっておいた写真を取り出した。
 何度も出し入れしているうちに、端の方が擦り切れ、ひび割れが出来ている。特にストリートコートに出入りするようになってから、汚れに拍車がかかった気がする。
 傷だらけの枠の中で、真新しいユニフォームを羽織る自分と、恥ずかしそうに俯く奈緒。あれから大した時間は経っていない。季節が一つ変わっただけなのに、随分と懐かしく感じてしまう。
 彼女はあの時、何を考えていたのだろう。本当は嫌々撮られていたのだろうか。それとも――。
 俯く彼女の視線が少しで良いから自分の方へ向けられていたなら、今でも希望を感じられたのに。距離のあるツーショットを見つめながら、透は自分がどこか遠くへ流されていくような気がした。もうあの頃には決して戻れない別の場所へ。

 数日後、またしてもビーが虚ろな目をして溜め息を吐いた。
 「なあ、トオル? 俺様このままじゃ、青い瞳に吸い込まれそうだ」
 「青い瞳? 黒い瞳じゃなくて?」
 「いや、あの強気で大胆な青い瞳には、運命的なものを感じる」
 「強気で大胆な青い瞳って、まさか……?」
 今度の相手は、ディナだった。変わり身の早さに絶句する透とは対照的に、レイは落ち着き払っている。
 「だから、いつもの病気だって言っただろう?」
 「だけど、なんでまたディナに?」
 あまりの急展開に釈然としないまま、透は親友の次の言葉を待った。
 好きになった相手は変わっても、恋愛中のビーの傍迷惑な行動は変わらない。ボールをフェンスの穴に押し込む仕草も、前より手際が良くなったようだ。
 「あのストレートな言い方が、グッと来るんだよなぁ」
 どうやらジーンに振られた直後から、ビーの気持ちはディナに傾いていたらしい。
 リビングでの告白の後、皆が腫れ物に触るようにビーに接する中で、彼女だけが何でもない事のように言い切った。「諦めて、次の恋を探しなさい」と。
 あの強気な物言いが、ビーのハートを鷲掴みにしたのだろう。
 「俺様、ああいう前向きな女性に弱いんだ」
 「ジャンの指令が裏目に出ちまったな」
 再び乙女になった相棒のとなりで、レイが憂鬱そうに頭を抱えた。
 こうなってみて分かったことだが、ビーは人一倍惚れやすい性格だ。無慈悲に思えたジャンの指令も、それを踏まえての事だろう。
 「リーダーが不機嫌になる前に、さっさと終わらせるか?」
 今回は透も異論はない。
 しかし、親友二人が立ち回らずとも、本人も学習していたようだ。ビー自ら透の家に出向き、ディナの助言どおり直球で告白したという。
 「俺様、アンタに惚れた!」
 これ以上ないぐらいのストレートな告白だった。そしてその直球を、ディナも同じく直球で返した。
 「アタシ、すぐ心変わりする男、嫌いなの。イタリア人で懲りたから」
 問題は、彼女の身も蓋もない断り方に、ビーが本気で惚れてしまったことである。立て続けに二人の女性に振られた彼が、ナンバー3として復活したのは、それから一週間も後のことだった。
 殺風景なストリートコートにも落ち葉が舞い込み、着々と秋の訪れを知らせていた。






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