第23話 迷鳥

 月が輪郭を深める時刻であったが、ジャックストリート・コートの中だけは時間の流れの外にいた。
 コンクリートの地面には未だおぞましい色の粘液が貼り付き、ペンキの缶や卵の殻が役目を終えた直後のままで放置されている。威勢の良かったメンバー達も電池が切れたように大人しくなり、それぞれが何をするでもなく、思い思いの場所で過ごしている。
 明日になれば新しい仲間が加わり、ナンバー5の座をキープしていたブレッドの存在は完全に消滅する。永久欠番など存在しない。メンバーは常に五十人。欠ければ新しく補充する。これがジャックストリート・コートのルールである。
 だからこそ、今だけは離れたくないのだろう。彼の余韻がまだ残っているうちは。
 透も皆と同じ気持ちであったが、自分の身を案じて家で待つエリックのことを考えると、これ以上長居は出来なかった。ブレッドと過ごした日々を大切に胸にしまうと、いつもより重たく感じるフェンスの扉を開けて外へ出た。

 メインストリートを抜けて自宅へ帰る途中、前方から叫び声が聞こえてきた。酔っ払いにせよ、引ったくりにせよ、夜になると当たり前のように治安の悪くなる場所柄、女性の悲鳴であっても気に留める者はない。
 透もいつもは無視して通り過ぎるところだが、聞き覚えのある声に歩を止めた。
 「放してっ……警察を呼ぶわよ!」
 「モニカ?」
 声を上げていたのは、モニカであった。数人の男達が彼女を取り囲み、無理やり車で連れ去ろうとしている。
 仲間の窮地を察した透はラケットを振り回し、不穏な匂いのする集団を目掛けて突っ込んでいった。
 外見からして嫌な予感はしたのだが、彼等の避け方で確信した。ミリ単位の隙間を残し、極力無駄のない動作で攻撃をかわす。この剣道四段の父親とよく似た身のこなしは、武道を習得した者達に違いない。
 「とにかく、こっちへ……」
 透は相手がラケットを避けた瞬間に素早くモニカの腕を掴むと、ひとまず来た道を引き返した。
 自分独りならまだしも、女連れで戦うには分が悪すぎる。遣り合いたい気持ちも少しはあったが、モニカの安全を確保する方を優先させた。

 メインストリートからジャックストリート・コートへ向かう途中に、ちょうど間を挟むようにして植物園ほどの大きさの自然公園があり、さらに奥には森がある。この森が大通りからの目隠しとなってくれるおかげで、ストリートコートの存在はあまり世間に知られることなく、ヤンキー達の溜まり場と化している。
 そこへ逃げ込めば、さすがの武道の達人たちも追っては来られまい。そう判断した透は、モニカを連れて森の奥へと入っていった。
 人の手を極力抑えた森には目立った外灯もなく、闇夜に浮かぶ月の光だけが頼りであったが、自分達がどこにいるかは把握していた。岐阜の山奥で育った経験から、判別のつけにくい森の小道を覚えるのではなく、木の種類と枝ぶりを目安に進むという知恵がある。しかもストリートコートへ抜ける近道として、しょっちゅう利用している為に、暗がりであっても大よその見当はついていた。
 ちょうど真ん中に差し掛かった辺りで、男達を撒いたと確信した透は、そこでようやくモニカの腕を放した。迷子にならないよう強く掴んでいた為に、彼女の白い手首が赤くなっている。
 「悪りぃ。大丈夫か?」
 「平気よ。それより、ごめんなさい」
 「モニカが謝ることじゃない。だけどこの辺は物騒だから、遅くなった時は誰かに送らせねえと……」
 「そうじゃないの。あの人達は、パパのボディ・ガードなの」
 暗闇で俯いているせいで表情を窺い知ることは出来ないが、沈んだ声音から、彼女が何か深刻な事情を抱えている事は察せられた。
 「どういう事だ?」
 「アタシね、家出してきちゃったの」
 「家出? いつから?」
 「あの後、すぐよ。トオルの家で、その……」
 モニカが気まずそうに肩をすくめて見せた。柄にもなく言いよどむ姿から、『ラビッシュ・キャッスル』で泥酔した彼女を自宅まで運んだ夜の記憶が甦る。
 気位の高い彼女のことだ。自身の醜態に繋がる話には触れたくないのだろう。
 あの時からという事は、少なくとも四ヶ月は経っている。父親がボディ・ガードを使って連れ戻そうとしたのも、無理はない。

 「アタシね、今までずっとパパに守られてきたの。だから、いつも期待を裏切らないようにって、それだけを考えて過ごしていたわ」
 暗い森に差し込む光は、そこに生い茂る木々が創り出す影さえも青白く見せている。気の強いモニカがやけに弱々しく見えるのも、この月明かりのせいかもしれない。
 「ジャンやトオルに出会ってから、アタシも強くなりたいって思ったの。誰かを喜ばせる為じゃなくて、自分の為に強くなりたい。それが本当の強さだって分かったの。だから家を出て、独りでやってみようと思って……。
 だけど、やっぱり駄目。今日だってブレッドのグラデュエーションなのに、ラリーに参加できなくて」
 ここにも一人、人知れず自分を責めている者がいた。彼女が沈んで見えるのは、光の加減ではなかった。仲間との別れをもってしても過去のトラウマを克服できなかった、己の弱さを悔いている。
 「アナタ達のようになりたくて頑張ってみたけど、アタシは……アタシが思っていたほど強い人間じゃないみたい」
 自身を嘲り笑おうとして、予想以上に悔しさの方が強かった。モニカの唇が不自然な歪み方をしたのは、そんな理由からだと思った。
 きつく噛み締めた唇の上を月明かりよりも透明な滴が通り過ぎ、口の周りを半分だけ濡らしてから、顎をつたって流れ落ちた。
 これで彼女の涙を見るのは三度目だ。
 一度目は、涙の訳など考えようともしなかった。二度目は、考えようとしたが分からなかった。
 しかし、今回は違う。泣きたくなる気持ちは、透にもよく分かる。
 遥希との勝負で敗北する度に。父親の都合で振り回される度に。涙で頬を濡らす奈緒を前にして、何も出来ずに日本を出発した時も。アメリカでテニス部を追い出された時も。そして今日も ―― 不本意ながら出て行く仲間に対して、ただ見送る事しか出来なかった。
 現実の自分が想像以上に非力だと思い知らされた時の、心の軸をあっさり折られたような敗北感。悔しくて、情けなくて、それなのに、その感情をぶつける術もなくて。全て自分の弱さが招いた結果だと思うと、ただもう泣くしかない。

 三度目の涙の理由をよく知る透は、とっさにBMIでの出来事を話し始めた。上手く慰められるかは分からないが、傷ついた仲間に対して出来るだけの事をしてやりたいと思った。
 「今日、BMIへ行ってきた」
 BMIがテニスの名門校であることは、モニカも知っている。
 「成り行きでAランクの選手と試合をする事になってさ。どっちが勝ったと思う?」
 透の得意げな言い方で、勝者を察したのか。モニカが驚きの混じった視線と共に顔を上げた。
 「まさか?」
 「当然だろ。うちには最高のコーチがいるからな」
 本当はかなりギリギリの勝負であったが、彼女を励ますために、余裕で勝った振りをした。
 「アタシなんて、別に何も……」
 「俺が試合の主導権を握れたのは、一日千二百本ものサーブ練習をやらせた鬼コーチのおかげだ」
 「だったら、ジャンのおかげだわ」
 「それもあるけど、モニカが作ってくれた練習メニューにも随分助けられた」
 「でも、結果的にはトオルの努力よ」
 やはり思い付きでは効果がないのか。彼女の視線が再び足元へと落ちていく。
 俯く涙は見たくない。それは独りぼっちの証拠だから。そう思った瞬間に、透はモニカを自分のところへ抱き寄せていた。
 特別な感情はなかった。黙って胸を貸す以外、彼女を慰める方法が浮かばなかった。
 腕を伸ばすと、彼女はすんなり寄りかかってきた。以前は胸ではなく、肩を貸していた。その身長差が、いつの間にか同じ背丈に並んでいる。

 抱き締めやすい体勢であるにもかかわらず、透は彼女の肩に腕を回すに留めた。
 迷鳥と言って、通常の渡りの道筋から外れてしまい、独りぼっちで渡来する鳥がいる。自力で戻る強さのある成鳥は良いが、未熟な雛が群れからはぐれた場合、自然の摂理に倣って餌になるのを待つしかない。
 そういう行き場を失くして怯える雛を、子供の頃、山の中で何度か見かけたことがある。
 帰りたいと思っているのに、帰り方が分からない。不憫に思って、家へ連れて帰ろうと拾い上げると、雛は命運尽きたと思うのか。小さな体を震わせ、声を振り絞るようにして鳴くのである。
 大丈夫だと伝えたくても言葉が通じず、そっと抱えてやるのが精一杯だった。いつでも逃げ出せる空間と、落とさない程度の力加減が難しくて、オロオロしながら持ち帰った覚えがある。
 腕の中にいるモニカは、まさにあの時の雛のようで、強く抱き締められなかった。傷つき易い迷鳥を、どう扱えば良いのか。あの時のもどかしい気持ちが甦る。
 「BMIのコーチって、嫌味なババアでさ。魔女みたいに、こんな顔してんだ!」
 透は顔をしかめながら、鼻をぐいっと潰して見せた。ジャンや唐沢のような気の利いた台詞の持ち合わせがない未熟なガキは、こんな子供染みたやり方でしか彼女の笑顔を引き出せない。
 「バカね。せっかくのお坊ちゃまが台無しよ」
 泣き顔の中の作り笑いが、見知った笑顔に変わる。いつもの勝気な彼女が戻ってきた。
 これで良い。自分の周りの人間には、いつも笑っていて欲しい。彼女も大切な仲間だから――。

 ――単なる仲間だと思っていたのに。
 いつの間にか同じ背丈に成長した少年の腕の中で、モニカは自らの心境の変化に戸惑っていた。
 「やっと、笑ったな。モニカはそっちの方が良い」
 どうにかして笑顔を引き出そうと他愛もない話を続ける透が、いつになく紳士に見える。
 普段とは違う格好をしている所為もあるだろう。きちんと整えた髪と、襟のついたジャケットが、あろうことか彼を品良く見せてしまう。
 第一印象は、最悪だった。生意気で、口が悪くて、フェミニズムも知らない非常識な悪ガキだった。それがいつの頃からか、仲間になり、男として意識するまでになったというのか。
 胸の辺りが騒がしい。心臓が尋常ならぬ速さで脈を打っている。それが何を意味するのか、年相応に恋愛経験のあるモニカには容易に判断できる。
 たった今気付いたばかりだが、実際にはもっと前から意識の奥底では変化していたのだ。生意気な悪ガキから、恋愛対象となる異性へと。
 たぶん透の家でサーブ練習を手伝った頃から、彼のテニスに対する直向な情熱を見た時から、自分はすでに好意を抱いていたに違いない。

 モニカは透の腕から離れると、くるりと背中を向けた。
 「そろそろ、帰らなきゃ……」
 胸の鼓動を気付かれないように、慌てて距離を置く。
 「危ねえから家まで送ってやるよ。モニカも一応、女だかんな!」
 いつもは聞き流す悪態に、心が乱される。
 相手はハンカチの代わりに滅菌ガーゼを平気で差し出す、デリカシーの欠片もないガキだというのに。生意気で、乱暴で、テニス以外のセンスはまるでなく、子供染みていて、自分が理想とする大人の男とは対極の存在なのに。
 思いつく限りの欠点を並べ立て、勘違いではないかと考え直してみたが、一度惚れたと認めた後では、自分を苦しめるだけだった。
 「ダウンタウンまでで良いわ。そこからタクシーを拾うから」
 本当は一刻も早く独りになりたいところだが、森の奥まで入り込んだ状況では、透のエスコートが必要だった。爆発しそうな心臓を抱えてでも、付いていくしかない。

 街中で育ったモニカには同じに見える森の小道が、透には区別がつくらしい。慣れた足取りで進む彼の後姿が頼もしく感じる。この百八十度違う感覚は、どうすれば元に戻るのか。
 自分の気持ちを知る前と、知った後と。狂いっぱなしのセンサーに振り回されている。
 「そこの木の上に鳥の巣があるから、気をつけろよ。雛が生まれたばかりで、親鳥が警戒しているから」
 琥珀色の瞳に動揺する自分がいる。沈黙が続けば勘付かれてしまいそうで、モニカは無理に会話を繋いだ。
 「随分、この森に詳しいのね」
 「俺はもともと山育ちだから。こういう場所は歩き慣れているし、わりと好きなんだ」
 山育ちと聞いて、透の運動能力の高さが生育環境から来るものだと納得すると同時に、彼のプライベートについて、あまり知らない事にも気が付いた。
 「よく、ここへ来るの?」
 「独りになりたい時には、大抵この中にいるかな。家じゃあ、騒がしくて落ち着かねえし」
 「そう言えば、トオルの家は随分賑やかだったわね」
 「お袋が勝手に留学生を受け入れちゃってさ。おかげで、毎日、家のどこかで事件が起きている」
 「素敵なお宅に見えたけど、嫌いなの?」
 「いいや。大所帯で大変だけど、嫌いじゃないと思う。でも落込んだ時なんかは、ここにいる方が楽なんだ。俺が育ったところに似ているからかな」
 「トオルの帰ろうとしている場所?」
 「いや……」
 透が右手のリストバンドを胸の近くで大事そうに抱えながら、ふと夜空を仰いだ。まるで実体のない空にその場所があるかのように、目を細めて見上げる横顔は、どこか手の届かぬものへの追慕を感じさせる。
 「それは、あの写真の彼女からのプレゼント?」
 本当は聞きたくもない話であった。だが、聞く必要があった。
 透がいつも身に着けているリストバンドは、本来の用途以上の働きをしている。試合で追い込まれた時には決まってそれを見つめている事を、いつの頃からか、モニカは知っていた。
 聞いてはいけない。聞けば、自分が苦しくなるだけだ、と女の勘が知らせてきた。それでも自ら話を向けたのは、写真の彼女への想いが推し測れる気がしたからだ。
 「たぶん、向こうは忘れていると思う。でも俺にとっては、何て言うか……すげえ大事な奴なんだ」
 やはり女の勘は当たっていた。女性に対して気の利いた台詞の一つも言えない透にとって、「すげえ大事な奴」とは最上級の愛情表現に違いない。本人に自覚があるか、ないか、は別として。
 心の底では、リストバンドが単なる友達からの贈り物であることを望んでいた。自分と同じ位置づけの。しかし実際は、想い人からのプレゼントであるだけでなく、本人の口から決定的な言葉を聞かされてしまった。
 すげえ大事な奴 ―― シンプルすぎて入り込む隙もない。
 久しぶりに味わった胸の痛み。皮肉にも、その痛みの強さで、自分がいかに重症であるかを自覚した。

 「俺達、いつ卒業出来るんだろうな」
 夜空の彼方に視線を置いたまま、透がぽつりと呟いた。
 それは問いかけというよりは溜め息に近く、たとえ問われたとしても答えられもしなかった。誰も答えを知る者はいない。
 しばらくの間、沈黙が続いた。
 すると、突如として真っ白な光が視界を遮った。途切れることなく行き交うフラッシュは、メインストリ−トを流れる車から発せられるものだ。どうやら無事に森を抜け出たようである。
 暗がりから急に明るい通りに出たせいで、あらゆるものが眩しく感じた。車のヘッドライト、ショーウィンドウの照明、電飾の付いた看板。普段は光源とも思わぬ外灯さえも、存在感のあるものに見えた。
 否応なしに飛び込んでくる光の眩しさに目を瞬かせながら、透が再び口を開いた。
 「俺さ、ずっと親父のことを恨んでいた。自分勝手で、息子のことなんて眼中にない親父を、たぶん、今も……。
 だけど今日ブレッドを送り出して、少し考えが変わった。
 比べる事じゃないかもしれないけど、俺は自分の夢を追いかけられるだけ恵まれている。あんな親父でも感謝しなくちゃいけねえのかなって……」
 確かに、彼の言う通りだ。こうして夢を掴もうと、もがき苦しんでいる事さえ、ブレッドから見れば幸せなことだろう。
 「だから残された俺達は、少しでも良いから前に進まなくちゃいけないと思う。真っ直ぐじゃなくても回り道でも良いからさ」
 数少ない引き出しの中から、ありったけの言葉を探して、彼は前を向けと励ましてくれている。決して饒舌ではないが、荒削りであるが故に、直に心に響いてくる。
 「今すぐじゃなくても、いつか出来るようになったら、今日の分もまとめて取り返せば良い。ブレッドが本当に望んでいるのは、残った俺達が夢を叶えることだと思うから」

 「アナタと一緒なら……」
 言いかけた時だった。ショルダーバッグの中の携帯電話が鳴った。
 「モニカ、そっちにトオルいねえか? あいつ、携帯持ってねえからさぁ」
 電話をかけてきたのはビーだった。
 「どうした、ビー? えっ、エリックが……あっ、悪りぃ……」
 取り次いだ電話に向かって謝っているところを見ると、透には他に大事な用事があったのかもしれない。プライベートな問題に巻き込んで申し訳ないと思いつつ、それに付き合ってくれた彼の優しさが嬉しかった。
 「ああ、もうすぐ帰るって、伝えておいてくれないか?」
 電話を切るなり、透がくしゃっと髪を掻きあげた。困った時によくする仕草である。
 「やっべえ! すっかり忘れていた」
 「ごめんなさい、アタシのせいで。用事があったんでしょ?
 もう大丈夫だから、早く帰って」
 「バ〜カ! つまんねえこと気にすんな」
 「バカって……人がせっかく素直に謝っているのに、バカって言うことないじゃないの!」
 「それがバカだって。モニカが素直なんて気色悪りぃ」
 魔法が解けた直後のシンデレラになった気分であった。森の中で優しい言葉をかけてくれた王子様は、どこにもいない。
 「卒業する前に、アナタにはフェミニズムについて、しっかり教えなければならないようね。アタシ達が卒業するのは、その後よ」
 「そうそう、モニカはフェミニズムって言っている時が、一番らしくて好きだ」
 「お子様にに好かれたって、嬉しくも何ともないわ」
 本当は「アナタと一緒なら、夢を叶えられるかもしれない」と言おうとした。
 森から抜け出て現実に戻っても、一旦熱を持ち始めた感情は一向に冷める気配がない。彼がどんな顔をしようが、何を言おうが、今はそのマイナス要素にさえ惹かれてしまう。
 それでも仲間のふりを続けたのは、無理な願いだと分かっているからだ。お互い群れからはぐれた迷鳥だが、それぞれ帰るべき場所が違うのだ。
 幸か不幸か、失恋すると分かっていて夢中になるほど子供ではない。
 膨らみ始めた感情に鍵をかけると、モニカは言いかけた言葉を胸の奥にしまった。互いが望む場所へと帰るために。






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