第10話 指針

 三年ぶりに訪れた区営コートは、昔と少しも変わらなかった。
 施設全体に漂うどこか垢抜けしない空気感 ――「今年度からテニスコートの抽選申し込みがインターネットで出来るようになりました!」と時代遅れの告知が掲示板の一等目立つ箇所に貼られているのが、その最たる例だ―― を始めとして、塗装が剥げたままの敷地のフェンスや、自動の表示があるのに手動で開閉しなければならない貧乏臭い受付の扉や、そのくせ中高生には好意的な料金形態も、思わず苦笑いが出るほどに変わらない。
 スポーツ振興事業を看板に掲げる以上は、せめて高校生アスリートを失笑させぬ程度のクオリティは保って欲しいと思うが、そんな至極真っ当な願望とは裏腹に、この「ボロくて、ダサくて、安い」区営コートの健在ぶりに、古巣に戻って来たかのような安堵を抱いてしまう。
 入り口から階段を上がって進んでいくと、今春中学生になったばかりの新入部員と思しき生徒達が、列をなしてテニスコートの周りを囲んでいた。
 この風景も相変わらずだ。
 テニス部に入部して約一ヶ月。そろそろ球拾い中心の下積み生活にも飽きてきた頃である。
 「やっぱりテニス部員はボールを打って何ぼだろ」などと言いながら、コートが空くのを今か、今かと、首を伸ばして待っている姿は微笑ましいものがある。
 かつては自分もあの中にいたかと思うと、透は胸の辺りにくすぐったさを覚えた。
 中学時代、まだレギュラーどころかボールもまともに打たせてもらえず、オンコートでの練習場所を探して辿り着いたのが、ここだった。
 ろくにルールも知らずに勝負を挑んで、当時、海南中学の部長を務めていた村主を怒らせたこともある。
 頂点に君臨する選手が如何ほどのレベルかを知りたくて、明魁学園の京極に土下座までして試合を申し込んだこともある。
 あの頃を振り返ると、初心者ならではの無謀な振る舞いを恥じ入る反面、諸々のしがらみに捕らわれず、好奇心の命ずるままに動けた自分を羨ましくも思う。
 物事の判断基準は好みで良かったし、理屈で雁字搦めになることもなかった。
 見るもの聞くもの新鮮で、コートに立てる。ボールが打てる。そんな些細なことに無限の喜びを見出せた。
 狭いなりにも世界が瑞々しく映っていた、あの頃がひどく懐かしい。

 学生達の熱気でむせ返る三面のコートを通り過ぎ、透は一番奥の四番目のコートを目指した。
 基本的にここは来た順に好きな場所を使用して良い決まりだが、暗黙のルールが一つだけ存在する。
 夕方のある時刻を過ぎてから一番奥のコートへ入ってはならない。何故なら、そこは海南中のテニス部員が学校以外の練習場所を求めて集結するために、戦力外の新入部員では歯が立たず、必然的に彼等の専用コートと化すからだ。
 透が目指したのは、その一番奥のコートであった。
 「トオル……だよな?」
 昔と変わらぬ場所で汗を流す懐かしい面々の中で、いち早く透に気づいて声をかけてきたのは二年生の伊達だった。
 「やっぱり、そうか! 他校のジャージで堂々とここに乗り込んでくるような奴は一人しかいねえよな」
 「ご無沙汰しています。ずっとご挨拶に伺おうと思っていたんですけど……」
 「気にすんなって。お前の噂は色々と聞いている。帰国早々、大変らしいな」
 「噂って、何ですか?」
 「光陵学園に転校して来たばかりの一年で、日高遥希を倒してレギュラー入りした兵がいるって。この辺りじゃ、その話で持ちきりだ。
 大会に出る前に転校しちまったからしゃあねえけど、お前のことをよく知らねえ連中が、日高コーチの秘密兵器だとか、唐沢さんの秘蔵っ子だとか、派手な噂を撒いてんだ」
 「そんな秘密兵器だなんて。どちらかと言えば、今はお荷物で……」
 「お荷物?」
 「いえ、何でもないです」
 訝る伊達の視線を避けて、透はさっさと本題に入った。その唐沢に追い出されたとは、今さら言えるはずもない。
 「えっと……村主さん、いますか? 今日はお願いがあって来たんですけど」
 光陵テニス部のレギュラーである以上は、昔のように図々しく他校の練習に転がり込む訳にはいかない。きちんと部長に話をつけてから見学させてもらうのが筋である。
 もうすぐ始まる地区予選では、この中の誰かと戦う可能性も大いにある。
 程なくして、村主が練習の区切りをつけて来てくれた。
 「おう、トオル! 無事に帰って来たか」
 久しぶりに再会した村主は、熊を連想させる体格に拍車がかかったものの、区営コートと同様、少しも変わらない。
 他校の後輩を快く迎えてくれる大らかな性格も。体型にそぐわぬ人懐っこい笑みも。
 「これで三年前のお前との約束が果たせるな?」
 律儀な村主らしい歓迎の言葉であった。
 その昔、地区大会で自身の出番が来る前にチームが敗れ、引退を余儀なくされた村主を気の毒に思い、とっさに透は高校生になったら同じ舞台で対決しよう、と申し出たことがある。
 己の実力も考えずに発した素人の戯言だが、彼はまだ覚えていてくれた。大切な約束事として。
 「身の程知らずも良いとこですよね」
 「何を弱気な。お前らしくもない。俺は楽しみに待っていたんだぞ。
 どうだ、一緒に打っていくか?」
 「いえ、今日は練習を見せていただきたくて。良いですか?」
 「それは構わないが、見るだけで良いのか? 遠慮するなよ?」
 「いえ、充分です」
 「そうか? 打ちたくなったら、いつでも言えよ」
 歯切れの悪い口調から、あまり立ち入らぬ方が良いと判断したのだろう。村主は歓迎の意だけを見せてコートに戻っていった。

 学校側の方針で男女合わせて一面のコートしか与えられない海南中のテニス部員は、設備の整った強豪校との格差をここでの練習で埋めていた。その習慣は高校へ上がっても変わらずのようで、三年前と同じメンバーが顔を揃えている。
 彼等の練習は、主にダブルス中心で行われるのが特徴だ。
 これは一面のコートを有効活用する為の苦肉の策でもあるが、この練習を重ねることにより、どのメンバーとも即座にペアを組んで対戦することが出来るという、選手層の薄さをカバーする為の村主なりの工夫でもあった。
 ちょうど透が練習を見始めて十分程したところで、ゲーム形式のパターン練習が開始された。
 1ゲーム毎に、部員達が二組の前後衛のポジションをローテーションで回っている。一周すれば両隣の選手とそれぞれ異なるペアでダブルスのゲーム練習ができる。これも合理性を考えた練習方法だ。
 透は村主の動きを目で追った。
 村主はあの唐沢が一目置くほどの選手である。彼のプレーに必ずヒントがあるはずだ。
 自分も練習に参加したつもりでコートの中に意識を集中させていると、ある一つの決まったパターンが見えてきた。
 ローテーションによって組む相手が変わっても、最終的にゲームを制するのは、いつも村主のいるペアであった。
 彼の実力の高さを考えれば当然の結果だが、それが当たり前だと気付くのに少し時間を要した。それ程までに彼の動きはさり気なく、むしろパートナーの方が村主と組む時だけ調子を上げて得点に貢献しているかに見える。
 目の前に映る現象が必ずしも真実とは限らない。透は偶然にも見える必然がどうして起きるのか。その原因を探ろうと、さらに注意深く観察を続けた。
 村主がシングルスでプレーをする時は、体格の良さを活かした豪快なショットを放つ。しかし、ダブルスでは目立って動くことはしなかった。
 いや、動かないのではない。彼は事前に球筋を読んで最小限の動きで先回りをする為に、そう見えるのだ。
 相手がボールを打ってから慌てて反応する透とは違って、村主は次にどこを攻められるか、分かった上で動いている。
 一対一のシングルスならともかく、四人も同時に動くダブルスで、何故このような対処が出来るのか。経験だけでは片付けられない、何かコツがあるに違いない。
 現時点で分かっているのは、彼がパートナーに合わせて動きを変えている点である。
 攻撃型の伊達と組めば守りを固め、ディフェンスが得意な石丸と組む時には、自身も粘り強くラリーを続けながら、相手が崩れた頃合を見計らって攻めている。
 パートナーの特性に合わせて自分の対応も柔軟に変える。これによってペアとしての力を最大限に引き出すことが可能になり、自ずと戦力もアップする。
 部員一人ひとりの個性を熟知する村主ならではのプレーである。

 「そうか……」
 不意にあの悪夢の練習試合が、頭の中で再現された。
 あの時、透は対戦相手である伊東兄弟しか眼中になかった。唐沢の足を引っ張らないようにと、パートナーの動きも見ずに独りで突っ走った結果、まんまと標的にされて自滅した。
 ダブルスの選手層が薄い光陵内部の試合なら、それでも勝ち抜けるかもしれないが、余所でこんなやり方が通用するはずがない。現にダブルスで戦い慣れた伊東兄弟にそこを“新生ペアの穴”と見なされ、攻められた。
 「そうだったんだ……」
 難解だと思っていた問題が、視点を変えることで容易に解けていく。それは上空から迷路を見るような。客観的な立場で自分のプレーを見直すことで、どこでどう迷ったのか。その全体像を把握することができる。
 少し広くなった視界から徐々に注目すべき問題点が浮かび上がる。
 二対二で戦うダブルスで意識を向けるのは、相手ペアの二人だけではない。常にパートナーの動きも視野に入れて、プレーしなければならない。
 あの試合で透は唐沢のお荷物にならないようにと、際どいボールは全て自分が処理するつもりで、必要以上に行動範囲を広げていた。
 パートナーに任せられるボールは、無理せず頼めば良い。むしろ唐沢の実力を考えれば、己の限界を超えるまで出しゃばる必要はなかった。
 自分とパートナー、どちらの力を使う方がより効率よく攻められるか。これを頭に入れて、最も戦況に適した戦い方を考える。
 それには互いの行動範囲を意識して守らなければ、パートナーと連携することは不可能だ。
 村主はパートナーの動きを常に意識してプレーをしているからこそ、大して動き回らずとも戦力を最大限に引き出すことが出来るし、そうやって自分達の戦い方のスタイルを確立させることで、相手の動きも見えてくる。
 試合中、あえて唐沢が最低限の動きしか見せなかったのも、透にこの事を気付かせようとしたからだ。
 あの試合の敗因は、パートナーの存在を無視した透自身の独りよがりなプレーにあった。

 答えを見つけた途端、透は居ても立ってもいられなくなった。この五日間コートから離れていたストレスもあって、体がテニスを求めている。
 「村主さん、俺もまぜてもらって良いッスか?」
 「ああ、やっとお前らしくなったな」
 「えっ? そんなに、らしくなかったですか? 実は他の先輩にも『らしくない』って言われたんですけど……」
 「まあ、そうだろうな」
 「俺、そんなに変わりましたか?」
 透の問いかけに答えることなく、村主は伊達と副部長の石丸を呼び寄せ、打ち合わせを始めた。どうやら海南高校の主力メンバーを相手に、練習試合をさせてくれるらしい。
 懐かしい面々と打ち合える喜びと、区営コートの熱気も相まって、心臓がドクドクと暴れ出す。
 久しぶりに体の隅々に血が通った気がする。この疾走前の馬のような昂りを何というかは分からぬが、長い間、どこかへ押し込めていたものだ。
 きっと自分は、今、あの順番待ちの新入部員と同じ顔を見せているに違いない。
 勝敗よりも試してみたい。自分で掴んだ答えが彼等に通用するのか、ただ、ただ、試してみたかった。
 ところが、打ち合わせの後で村主から告げられたのは、せっかくの高揚感を急速冷凍させるような台詞であった。
 「石丸とも相談したんだが、地区予選を前に光陵生と試合をするのは、さすがにマズい。お前も随分、有名人になっちまったからな。
 うちとしても、あらぬ噂が立って唐沢に迷惑をかけるのは本意じゃない」
 「やっぱり、そうッスね。じゃあ俺は外れますから……」
 「そうじゃない。要するに、問題はお前じゃなくて、そのジャージだ」
 「へっ……?」
 「心配するな。俺も一緒に脱いでやる」
 そう言って、村主は妙に清々しい笑みを向けたかと思えば、自身の着ているジャージを豪快に脱ぎ捨てた。
 「あのう、村主さん? 脱ぐって、どこまで……?」
 透がこんな乙女のような質問をしたのには、訳がある。目の前に放り出されたのは、ジャージの上下に留まらず、中のシャツまでも「脱ぐ」の対象だった。
 現在、村主は白のショートパンツ一枚で、逞しい体躯を外気に晒している。
 短パン一枚でプレーするなど、どこかの暑苦しい体育会系のようで恥ずかしい。
 真夏でもなければ、どしゃ降りのグラウンドでもなく、春うららかなテニスコートでこんな姿になる必要がどこにあるのか。
 しかも暑苦しくなるのは、たった二人だ。一時のノリで血迷うには、あまりに寂しい人数だ。
 躊躇う透をよそに、村主は着々と試合の準備を進めている。
 「ペアはバランスを考えて、お前と俺、伊達と石丸の組み合わせで良いよな?」
 「それは構いませんけど……」
 「本格的に3セットマッチでどうだ?」
 「それも構いませんけど……」
 「他に何か問題があるのか?」
 「あの……どうしても脱がなきゃ駄目ですか?」
 この時すでにコートの周りには、中学生を中心としたギャラリーが出来上がっていた。いくら一番奥とは言え、中学生よりも分別のあるはずの高校生が短パン一枚でコートに立っていれば目立つに決まっている。
 「そうか。だったら、止めるか? こんな美味しい組み合わせは、もう二度とないと思うがな」
 物珍しげなギャラリーには目もくれず、村主の視線は透だけを捉えている。お前の返答以外、何も興味がないと言いたげに。
 確かに村主をパートナーに迎えてのダブルスは、光陵テニス部にいる限り経験できることではない。その上、副部長の石丸と伊達を相手にするなど、こんな美味しい組み合わせは二度とない。
 目の前にぶら下がる好カードに比べれば、村主から出された条件など些細なことだ。昔は裸足でコートに入ったこともあれば、アメリカにいた頃は、テニスをするのに服装などお構いなしだった。何を今さら迷うことがある。
 自分でも気付いているはずだ。一時の恥より、この対戦を逃す方がよっぽど無念だと。
 「ああ、もう! 分かりましたッ!」
 半ば自棄になって着ているジャージを中のシャツごと脱ぎ捨てた透を認め、村主がニヤリと笑った。
 「俺にも部長の面子があるからな。本気で行くぞ。付いてこられるか?」
 「望むところッスよ」
 「俺に恥かかせるなよ?」
 「もう充分かいてます!」

 自称・無所属の短パンペアと海南の選抜ペアの試合は、二時間に渡って続けられた。
 俊足の伊達と鉄壁の石丸コンビは、まさに伊東兄弟と同じタイプの組み合わせで、攻守の区別がハッキリしている分だけ付け入る隙がない。
 息のあったコンビネーションに苦戦しながらも、透は村主と呼吸を合わせることに専念した。
 短パン姿を嘲笑するギャラリーはもちろん、村主との実力差も気にならなかった。彼の能力を上手く活かして、いかに試合を有利に進めるか。それだけを考えてボールを追いかけた。
 自分とパートナーの力が融合し、二倍、三倍と強さが増していく充実感。最も効率的なルートを弾き出し、それがパートナーの動きと一致した時の達成感。
 この二つが運んでくる快感に、いつの間にか透はのめり込んでいった。
 「村主さん、ダブルスって面白いッスね!」
 「ああ、テニスだからな」
 「そうでした。面白いんですよね、テニスって!」
 コートに立てる。ボールが打てる。
 三年前に感じていた喜びが甦る。
 朝起きて、空が晴れているというだけで、テニスが出来るとはしゃいでいた。区営コートの入り口でテニスボールの打球音が聞こえてくると、どうしようもなく血が騒ぎ、順番待ちの列に向かって駆け出した。
 あれから長い螺旋階段を一段ずつ登っていくうちに景色も変わり、足元にある大事なものを見落としていたのかもしれない。新たな喜びを知ったが為に、欲張りになっていた。
 いくら高みに上ろうと、己が根幹を成すものは変わらない。それは螺旋階段の支柱と同様、根元から真っ直ぐ高い空へと突き抜けていくものだから。
 ラケットがボールを弾く快音を聞きながら、透は忘れかけていた小さな喜びを噛み締めた。
 今日も空は晴れている。

 試合の結果は「2−1」で短パンペアが逃げ切り、どうにか部長の面目を保った格好で決着がついた。
 今となっては服装など、あれこれ議論する必要もなかった。3セットの長丁場になれば、仮にシャツを着ていたとしても、途中で脱いだに違いない。
 辺りはすっかり日が暮れて、コートを囲むギャラリーも数えられる程度に減っていた。
 見晴らしの良くなったフェンスからコートの中へと春風が優しく通り過ぎる。春特有の生温かな風なのだろうが、火照った体には心地良い。
 村主も透と同じことを感じているのか、素肌を晒したままである。
 「どうだ、トオル? 久しぶりの区営コートは広く感じたか?」
 「いえ……?」
 「アメリカはどうだった? やっぱりアメリカン・サイズで、デカいのか?」
 「そんな訳ないじゃないですか」
 初め透は、村主がふざけているものと思っていた。彼等との間ではよくあることで、透がアメリカへ旅立つ際にも、向こうの犬は英語を喋るなどと、見送りついでに散々からかわれた記憶がある。
 「そうか、変わらないのか。なら、安心だ。
 どんな立場で、どこのコートに立とうが、俺達がやる事は一つだな」
 「村主さん、それでわざわざ短パンに? 俺にそのことを伝える為に?」
 「いや、そんな大層なものじゃない。ただ、その両肩に乗せているものが重そうに見えたんでな。一時でも降ろせれば良いかと思っただけだ」
 自分でも照れ臭くなったのか、村主はそそくさとシャツを着始めた。
 「やっぱ変わんないッスね、村主さんは」
 「ああ、お前もな」
 これが先程の問いの答えと思って良いのだろうか。
 不安げな眼差しで探りを入れる透の肩を、村主がポンと叩いて言った。
 「安心しろ。良くも悪くも、人間はそう簡単に変われるもんじゃない。
 ルールも知らずに俺に試合を申し込んできたあの頃と、お前は少しも変わっちゃいない。
 三年ぶりに帰国して戸惑うことも多いだろうが、何が自分にとって大事なものか。それさえ忘れなければ、大丈夫だ」
 「はい……村主さん、ありがとうございました」
 「地区予選で、お前たち光陵勢と当たるのを楽しみにしている」
 「ええ、俺も」
 唐沢が求めていたであろう答えは見つかった。明日はこの答えを持って光陵テニス部のコートに帰ろう。
 きっと唐沢は待っているはずだ。パートナーが答えを見つけて戻って来ることを。
 コートを去る前、透は村主と固い握手を交わした。
 「村主さん、地区予選では必ずぶっ倒しますから覚悟してください」
 三年前より現実味を帯びた宣戦布告に「おう」と応えた村主が、ふと夜空を見上げて満足げに微笑んだ。
 「おっ、星が出ているな。明日も晴れか」






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