ゆうくんのラブレター  ―― 母となる貴女に エールを込めて ――


 「ママ、ママ!
 愛ちゃんがね、おひっこしするんだって!」

 突然、大事件を聞かされたものだから
 君はランドセルと一緒に、まん丸の目を連れて来たんだね。

 「スゴイよね、ママ?」
 「どうして?」
 「だって、おひっこしなんだよ」
 「ゆうくんは、お引越しって何か知っている?」
 「うん……ちょっとだけ、わかるよ。
 だって、おぼえてるもん」

 あの時は、パパとママも大騒ぎしたからね。

 「ゆうくんは、どんな気持ちだった?」
 「うんとね、ドキドキした。
 だって、おひっこしだもん」
 「そうだよね、お引越しだもんね」
 「でもね、みんなとおわかれするって、しらなかったんだ」
 「そっか……ゆうくん、五歳だったから」

 まん丸の目の行く先は、ママの膝の上。
 お尻がストンと落ちると膝が痛むのだけど、ママは大人だから我慢、我慢。

 「だからね、愛ちゃんはスゴイんだよ」
 「どうして?」
 「だって、ぼくはひとりだけサヨナラだけど、
 愛ちゃんは、みんなと……サヨナラなんだもん」

 一人のサヨナラと、みんなとのサヨナラと。
 お口も尖っちゃうよね。

 「ゆうくんの言うとおりだね。
 たくさんのお友達とサヨナラする愛ちゃんは、スゴイよね」
 「ママ、ラブレターってかいたことある?」
 「うん、一度だけね」

 本当はもうちょっと書いたけど、まだ内緒。

 「愛ちゃんに、おてがみかこうとしたけど、やめちゃった」
 「どうして?」
 「だって、たっちゃんがラブレターだって、わらうんだもん」

 うつむく君の肩は小さくて、思い切り抱き締めるには幼すぎて。
 代わりに、ママは少しだけ違う本当を伝えてみたのだけど――

 「きっと、たっちゃんはラブレターが何か、知らないんだね」
 「ラブレターって、なあに?」
 「『あなたのことが大切です』って、お知らせする手紙のことだよ」
 「なんだ、そっか。
 じゃあ、はずかしくないんだね?」
 「『大切です』って伝えることは、恥ずかしいことなんかじゃないよ。
 もっと威張っていいぐらい」
 「わかった。ぼくラブレターかいてみる」
 「ママもお手伝いしようか?」
 「ううん、ひとりでかける。
 だって『サヨナラしても、たいせつだよ』って、かくだけだから」

 顔を上げた君は、ずっとずっと元気で
 すぐにお膝から飛び出して行っちゃった。

 続きは、また今度。
 いつか君が、誰よりも大切な人に
 ママに内緒でラブレターを送る日まで。

 その前に気づいてくれるかな。
 ママからのラブレター。
 本当の本当のラブレター。

 「いつも宝物をありがとう……大好きだよ、ゆうくん」